過去記事・ドイツ原発、廃炉への険しい道のり

過去記事・ドイツ原発、廃炉への険しい道のり

2011年3月に発生した福島原発事故からドイツの例を挙げた過去記事です。朝日ウェブ論座サイトではすでに掲載終了していますが、今年はこの大震災から10周年ですので、改めてお知らせします。なおこの記事公開は2011年11月2日。画像は RWE に提供していただきましたが、ここでは割愛しました。

記事トップ画像は、フリップスブルク原発です。記事とは関係ありません。

ドイツ原発、廃炉への険しい道のり

ドイツでは1974年に廃止したニーダーライヒバッハ原発や国内最初のカール実験用原発など、これまで多くの原発の解体撤去や復元作業の経験がある。福島原発事故以前、ドイツでは研究用の原子炉を含めて、すでに15基の原発が運転を終了していた。

画像1:ミュルハイム・ケールリッヒ(KMK)原発全景=写真はすべてRWE提供・©rwe

 これらの原発が廃止された背景は様々だが、ミュルハイム・ケールリッヒ原発(Kernkraftwerk Mülheim-Kärlich・以下KMK)(画像1)は、「地震発生時における危険性がある」という地学専門家の指摘がきっかけとなって廃炉にいたった。KMKは、2020年までに解体終了の予定で作業を進めている。

KMKが廃炉となった理由

 ライン川沿いのミュルハイム・ケールリッヒ市にあるKMKは、独電力会社ライン・ヴェストファーレン電力会社(RWE・本社エッセン)が運営するラインランド・プファルツ(RP)州唯一の原発だ。

  KMKの建設は1975年に始まった。当初から環境団体や周辺の住民の強い反対により、作業が難航した。さらに、1979年に事故を起こした米スリーマイ ル島原発のリアクターとKMK(加圧水型原子炉)リアクターが類似しているということも反原発デモ抗議を加熱させた。RWEは、原発反対者たちとの度重な る談合を経て、原発建設には問題ないことを確認し建設作業を進めた。

 ところが、ハンブルク大学・地学専門家の調査で、 KMK近郊のノイウィード市を中心とした周辺の地盤は、軽度地震発生の危険性があるという事実が明らかになった。この報告によると、KMKの周辺地下には 活断層が見られ、急激な断層運動による地震の可能性があるというのだ。

 RWEは、立地予定地より数十メートル離れた位置に原子炉建屋を建築することで地学専門家の指摘に対応した。KMKは86年に完成、予定より7年遅れて運転を開始した。

  ところがその後、RWEが建築変更許可を得ずに建屋を建設していたことが発覚した。住民や原発反対団体の怒りは爆発した。反原発支持者は同社を提訴、RP 州行政裁判所や連邦行政裁判所でRWEとの闘いが始まった。結果としてKMKは、1988年9月に運転停止に追い込まれた。運転開始からわずか13カ月後 のことだった。

 RWEは、RP州政府を相手にKMKの運転再開と損害賠償を求める訴訟を起こした。そして98年、「1.原 発建築費、金利、停止に伴う費用の一部を国が負担する  2.残余発電能力約1072億キロワット時を補填するために、同社運営の他の原子炉の稼動期間を その分延長する」という特別認可を得て、連邦行政裁判所の運転再開棄却を受け入れた。KMKは、2002年に燃料棒を撤去し、2004年から解体作業を開 始した。

KMK廃炉にかかる費用と時間、そして課題

  RWEによると、KMK建設の費用は70億マルク(約36億ユーロ・3960億円)。廃炉・解体の費用は、約7億5000万ユーロ(825億円)となって いる。現在、約250人の原子力専門家・技術者が解体作業に従事している。KMKの廃炉裁許から解体終了まで実質的な作業期間は18年ほどかかるとされて いる。(画像2、3

画像2:核燃料移送後は、放射線濃度が99%低下するそうだ

画像3:原子炉内解体作業・KMK放射性廃棄物は低・中レベル

 KMK敷地内の総廃棄物は約50万トン。内訳は、瓦礫や廃棄物が20万トン、原子炉廃棄物30万トン、(うち、放射性廃棄物はおよそ3000トン)に上ると推定される。

 RWEのダグマー・ブッツ氏によれば、3000トンの放射性廃棄物の最終貯蔵場所はコンラードが予定されているが、まだ同地の受け入れ態勢が整っていない。手始めに30トンほどの放射性廃棄物移送の準備が進められているが(画像4)、この廃棄物は、今KMK内に留まっている。連邦放射線防護庁(BfS)の見解では、2019年頃から最終貯蔵場所への受け入れが可能という。 そのため解体作業終了は2020年頃へと変更され、平地となった原発跡地の再利用については、今のところ未定だそうだ。

画像4:KMK内の放射性廃棄物集積所

 国内の中間貯蔵施設と最終廃棄場は、ゴアレーベン、シャハト・コンラード、モアスレーベン、アッセなどがあるが、原発廃棄物の直接 処分場の建設をめぐって、住民の激しい反対運動が起きている。高レベル放射性物質の処分場建設は、将来の世代に影響が及ぶ可能性があり、またテロや自然災 害のリスクも考えられるため、難航している。

 今年6月、筆者がフィリップスブルク原発取材時に出会った原子力専門家の「原発は、放射能廃棄物の最終処分地を決定してから建設するべきだった」という言葉が、今も強く印象に残っている。

■最低30年はかかる廃炉・解体作業

 原子力発電所の解体には、炉に残余している核燃料を完全燃焼して運転終了後直ちに解体するか、あるいは密閉管理した後解体撤去するという2通りの方法がある(KMKは完全燃焼させる方法)。

  廃炉には、まず原発建設、解体における専門家による解体プランを策定しなければならず、実際に作業に着手するまでに約5年の準備期間を要する。さらに、炉 に残余している核燃料を完全燃焼した後で廃棄物として処理する作業が、残余量にもよるが5年から7年ほどかかる。この後、完全解体にかかる時間は平均15 年から20年。解体プランから作業終了まで全部で30年ほどかかる計算になる。

 解体作業の費用は、1基当たり5億ユーロ (550億円)から10億ユーロ(1100億円)必要とする(原発の規模や稼動期間による)。この金額は、放射性廃棄物処理時に発生する経費は含んでいな い。廃炉費用は、原則として原発運営会社が100%負担する。運営会社はこの費用を原発稼働中の引当金に計上している。

■脱原発・ドイツの決断を待ち構えるもの

 メルケル首相は、国内にある17基すべての原発を2022年までに段階的に停止する政策を選択した。今後これらの原発も廃炉の道をたどることになり、この作業にかかる費用と時間は計り知れない。

 そして、原子力専門家と政府との意見の相違(放射能廃棄物処分先候補地の危険性、)高レベル放射性廃棄物の恒久的な貯蔵施設をどこに確保するか、二酸化炭素の排出量をいかに削減するかなど、数々の難題が横たわっている。

  再生可能エネルギーの利用拡大に向けたドイツの取り組みが、他国の手本となるかは未知数だ。だが、脱原発にむけて奮闘しているドイツの様子に世界中が大き な関心を寄せているのは事実だろう。ドイツが自国に課した難題に向けて勇往邁進し、どのように解決していくかを全世界が注目している。